【 オーヴァー 】   

(ワタミツでクリスマス)


さわって つないで ぎゅってして。
かまって わらって そばにいて。




「お前、しつこい」
「そうかなぁ」

ジングルベルのBGMの下、正月飾りを山と積んだ年季の入った軽トラが、
オーライオーライ、はいストップ!と紅白の軒の下に滑り込む。
12月24日、日曜日。
反対側の道端では、トナカイに扮した大学生が、
かの有名なひげのおじさんのフライドチキンを売っている。
クリスマスパックはいかがですかぁ、パーティバーレルはいかがですかぁー!
定番のクリスマスソングに乗って、枯れかけた声が健気に響く。

商店街は早くも正月仕様にカスタムチェンジ、
東西のオーナメントがひしめきあうここは今、
召喚獣でも呼び出せそうな混沌に満ちている。
足元に山盛りのゲイラカイトを詰まれた特大クリスマスツリーの横を、
可愛らしいホールケーキの箱を抱えた芦川美鶴がスルリ、通り過ぎた。
早足ですぐ後を追う、三谷亘の息は白い。

「明日死ぬかもしれないのに、そんな約束できるもんか」
「あ、それは多分大丈夫。芦川も僕もすっごい長生きするって!
 まじでまじでまじで!」

寒風で頬を真っ赤にした亘は、歩みを速める美鶴に
それでも同じ速度でくらいつく。
なんてめげない、なんてしつこい。

「根拠がない」
「あるよ、根拠。えーっと、そうだ、
 芦川って前に一回死んだけど死ななかったじゃない」
「言いにくいことをズバッと言うな」

シャンシャンシャンという鈴の音と、
陽気な音楽がバカみたいな大音量でかかってて、
アーケードの真ん中では声を張り上げないと会話も成り立たない。

「え、そう?とにかくそれで九死に一生スペシャル乗り切ったわけじゃん」
「お前、一体何の話がしたいんだ?」
「芦川は殺しても死なないくらい頑丈だった。
 だからこれからもきっと、めったなことじゃ死なないよ」
「…はぁ?」
「って、ぼくは思うよ!」

美鶴が目を丸くして立ち止まる。亘からふいっと目を逸らし、
ぼろぼろのスニーカーの足元に、いたたまれないように視線を逃がした。
擦り切れた爪先、サーモンピンクのロッキングレンガの上にキラリ、
折り紙でつくった金の星が落ちていた。
何人踏まれてクシャクシャになったそれが、いまだにピカピカ、
わらうように光ってた。
俯いたままの美鶴の眉が、また不機嫌にしかめられた。

「ばかか」

下を向いたままつめたく言い捨て、振り向きもせず歩き出す美鶴の後を、
それでもなお、ぱたぱたと軽い足音は追ってくる。
縋りつかれる、そのことに、美鶴の頑なな心のどこかがほっとする。

「それに、ぼくのお母さんちは、長生きの家系なんだって」
「お前はそうじゃないかもしれないだろ」
「やなこと言うなー」
「そうだよ、おれは嫌なやつなんだ。知らなかったのか?」
「芦川って時々すごい子供っぽいよね」
「はぁ?!」
「ほら、そうゆうとこがさ!」

美鶴のひえた胸の内にしんしんと降り積もる、雪が波にさらわれる。
全てをさらって潤す波は、しょっぱくて少し甘い、何ともなさけない味がする。

「芦川は、やなやつくらいで、ちょうどいいんだ」

やなやつはしぶといんだって、おばあちゃんが言ってたよ!と
屈託なくけらけら笑う親友の、小憎らしい顔をにらみつけてやろうとして、
でも思うかたちに顔を歪められなくて、
美鶴はケーキの箱を胸に無表情で押し黙った。
そんななけなしの抵抗は、どうせきっとお見通しだ。
あぁ、いやになる。

「いやなら約束しなくてもいいよ。でもさ」

まぶしくていやになる。

「いいじゃん。ずっと一緒にいようよ!」
「っ、」

胸に抱いたケーキの箱に力を込めて、美鶴が黙る。

「芦川、ケーキつぶれちゃうよ」
「…知るもんか、どうせお前が食べるんだ、文句を言うな」

リンリンと騒がしい鐘の音が、容赦なく頭の上からふりかかり、
子供の自分が胸を揺さぶる。
肺から切なく押し出された小さな息は、
亘のそれと同じく熱を帯びて、白くけぶった。

(すきだすきだ、だいすきだ)
(わたるがすきだ。わたるといられる、ここがすきだ)

俯く自分はなんて情けないことだろうと、思う。
肺の奥のもっと奥、深い胸の内に何かがあふれて、とどめられない。
いっそつぶれてしまえれば、楽かもしれない。
あぁだって、



いま、ここに居られることが、こんなにも、こんなにも。

こんなにも
こんなにも、
こんなにも。




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クリスマス突発わたみつでした。