Carpe diem


【 考察 】
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美鶴と叔母
美鶴と伯父
美鶴は何故、魔導士になったのか
黒ミツルの正体
美鶴の自殺未遂について
旅人ミツルのヒト殺し
その他こまごまと

【 小話 】
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オーヴァー(ワタミツ。クリスマス)  .......  12/22 UP
その胸の内に宿る (美鶴+バルバローネ)
ニケの背中 (ワタミツ。宮原視点)
 (叔母+美鶴)
Snow flakes (伯父×美鶴。無謀にも続き物)
動物園 (伯父さん)
バトラコトキシン (伯父ミツ)  .......  12/31 UP

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・美鶴と叔母:

父親による一家(+母親の浮気相手)惨殺から
生き残り…というよりは殺され損なった後に
おそらく親戚間をたらい回しにされた美鶴は
アメリカの伯父の元に1年ほど身を寄せたのち、
就職したばかりの若い叔母の家に回されます。
なんかもうたらい回しの最後尾!感がみなぎってます。
美鶴が頼れる親戚は、もうこの叔母以外いないのかもしれません。
叔母は、この子供が自分の手に余る事をよく分かっています。
彼女は美鶴に何度も優しくしようとしては失敗し、泣いていた、
「かわいそうな人だと思った」と美鶴が作中で語っています。
どう考えても一番不幸な美鶴が、
年若いとはいえ自分より12歳も年上の叔母に向かって
叔母本人に訴えるでもなく静かに憐憫の情を寄せているのです。
ここほんっと胸が痛くなります。この切ない独白と、
美鶴が皇女に
「あなたに傾き過ぎていた幸福の秤を、いま正してもらう」
(いま手元に小説がないのでうろ覚えですが)
と告げる場面もありますし、
美鶴にとって『運命を変える』事とは
妹を生き返らせるだけにとどまらず
妹の死とそれにまつわる一連の出来事に巻き込まれるかたちで
不幸になってしまった叔母の運命をも正すことが
含まれていたのではないでしょうか。
自分(たち)が奪ってしまった叔母の幸福を取り戻すことをも
強く望んでいた、美鶴の悲しいまでの愛情が、
そこにあったと思います。
なんて優しい子なんだろう…!!

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・美鶴と伯父:

たらい回しの数年間、精神的虐待は多々あった筈。
被虐待児は生き延びるために周りの空気に敏感になり
自分を守るための知恵と機転を身に付けるそうですから、
美鶴の凄まじいまでの頭の良さ、洞察力の鋭さから鑑みるに、
彼の置かれてきたのは亘の想像以上に
過酷な境遇だったのではないでしょうか。
しかも美鶴は凄い美少年なので
性的虐待を受けていた可能性もあると思います。

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・美鶴は何故、魔導士になったのか:

美鶴が魔導士になったのは知力の高さもさることながら、
あの子の事情から察するに、単に
剣で戦うことが出来ないからじゃないかと思います。
美鶴は旅のしょっぱなからヒト殺ししてる位ですから、
最初から殺人も辞さない覚悟で旅をしているのが分かります。
(この辺が亘と大きく違うところです。)
しかも美鶴は容赦ない性格なので、
こいつ殺そうと思ったら確実に息の根をとめるでしょう。
『父親が母親と幼い妹を刺し殺し、
美鶴の帰りを待っていた』
刃で誰かを刺すということは、おそらく
美鶴にとって最もつらい記憶を揺さぶる行為です。
どんなに揺るぎない強い意志を持っているとしても、
美鶴は所詮ヒトの子。万が一平静を欠けば隙が出来、
隙が出来れば必然的に弱くなり
場合によっては命を落とす危険に繋がります。
この危険をはらむ限り、美鶴は剣をとって戦うには不向きです。
その点魔法は自分が直接手を触れずとも
バルバローネや竜巻が敵を倒してくれて、
しかも威力は強大です。
間接的であればあるほど加害者の感情は揺れません。
刃物でざくざく斬り合う白兵戦できないけど
ミサイルだったらあんまり抵抗なく撃てる!ように、
魔導士だったからこそ美鶴は冷酷になれたのだと思います。

ついでに美鶴はずっと力を得ることを切望していた筈。
公式ガイドのインタビューにもありましたが、
一生背負って行かなくちゃいけない重荷があったのが
ある日突然それが全部解決できるよ、って言われたら
それだけしか見えなくなっちゃう。当然ですね。
「旅人」になったことで美鶴は現世の自分を捨てた、
すなわち弱い子供である自分を捨てることを許されたのです。
自分を縛り付けるものは何もない、その上に
強大な力をいきなり得たら、そりゃ暴走もするんじゃないかと。

で、その考えのもとに映画版の運命の塔の美鶴を考えると、
すごい切ないわけです。
作中では身近な攻撃も徹底して魔法オンリーだった美鶴が
唯一その手で止めをさした相手は、自分自身の影でした。
それはどういう事だったのか?
とりあえず自分に対する限りない憎しみを感じますが。
もうちょい考えがまとまったらアップします。

ついしん:
あの子はお料理をする時にも包丁を使わずに、
ハサミでちょきちょき食材を切っていると思います。
叔母さんはゾフィ様と同じでちょっと考え足りない
ところがあるので、そんな美鶴の姿を見ても
「包丁使えないの?やっぱりまだ子供ね」
なんて暢気に考えていればいいと思います。

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・黒ミツルの正体:

「願いは叶わない、お前はアヤを救えない」
「お前は弱い。お前は無力だ。何も出来ない」


黒ワタルはワタルの「憎しみ」だったけれど
黒ミツルがミツルの「憎しみ」かと言われると、
なんか違う気がします。
だって美鶴は憎しみを拒んでいない。
クロが認めたくない自分の心の象徴というなら、
美鶴にとってのそれは「弱さ」だと思います。
嘆く、迷う、怯える、挫ける、あと何だろ?

弱さの象徴のくせに本体を打ち負かすほど
強い理由ですが、美鶴はそれだけ多くの弱さを
今まで捨て続けて来たんだってことで。

魔導士になった理由の項で書きましたが、
美鶴はひたすら強い子です。ハンパじゃないです。
でもそれは過酷な運命に潰されないために
やっぱりハンパじゃない努力を重ねて作り出した、
「強い芦川美鶴」という彼の理想の姿なのだと思います。
正確には理想に近づこうとしている姿。
つらくない悲しくない迷わない怯まない諦めない、
とても強い芦川美鶴。
そのために美鶴は己の年相応な弱さや脆さを、
彼にとっての嘆きの沼に捨てて来たのです。

嘆いて悲しんで迷って怯えて挫ける自分なんて、
美鶴は絶ッッッ対に受け入れるわけがない。
だから美鶴は絶対に、黒ミツルには勝てないのです。

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・美鶴の自殺未遂について (注:とても陰鬱です)

原作では美鶴が叔母の元に来て間もない頃に
屋上から飛び降りようとしたのは有名な話ですが、
美鶴の自殺未遂はこれが最初ではないと思います。

三谷家のガス心中の夜に、亘を助けてくれた美鶴の台詞。
「都市ガスじゃ死ねないんだけどね、その事知らないんだな」
まず美鶴が普通の子じゃないってのをさっぴいても、
小学生は「都市ガス」って使い分けをしません、
単純にガスはガスだと思っているものです。
これはつまり、美鶴は以前ガス自殺をしようとした事がある、
もしくはガス自殺について調べたことがある、という
オソロシイ暗喩だと思います。
親戚を転々としていた時期に試みて失敗して、
あぁガスじゃ死ねないんだと学習したんじゃないのかな。
またそれが身元引受人の反感を買って、
また他所へ回されたりしてたんじゃないのかな…。

飛び降りようとした理由については叔母さんが
「まだこっちに来てまもないころ
毎日家で独りぼっちでいて、余計に気が塞いだんでしょう」
と言っていますが…
何しろゾフィ様でもあらせられる叔母さんの考えなので、
確実に的外れてます。

しかしさすがは現世のゾフィ様というべきか、
上巻の亘と叔母さんとの会話はヒントの宝庫。
サクサク言葉尻をとらえてゆくと、
まず『余計に気が塞いだ』という言葉からは
当時の美鶴の精神状態が
それでなくても不安定であった事が伺えます。

また他にも悲惨な実態が垣間見えます。
「なぜ美鶴は季節外れの中途半端な転校生だったのか?」
 新学期前後は自殺未遂の直後だったため、
 自宅あるいはそういった児童をケアする施設で
 安静を取らされていたのではないでしょうか。
 ちなみに亘が学校の廊下で美鶴とぶつかった時、
 ほんのり薬くさい匂いがしたとの描写があります。
「なぜ美鶴は転入早々かすがゼミに入ったのか?」
 おそらく美鶴の自殺再発をおそれた叔母さんが、
 少しでも気の紛れる場所、同年代の子供のいる場所に
 美鶴を置いて安心したかったのでしょう。
…23歳の叔母さんが泣くのも当たり前です。

美鶴の飛び降りの動機は大きく分けて、
・叔母への愛情
・環境の激変による混乱
ではないかと思われます。

ひとつめの理由、愛情について。
美鶴は叔母の元へ来るまでにすっかり傷ついて、
もう人を信じたり愛したりする望みを
完全に閉め出していたのだと思います。
叔母にも何の期待もしていなかった、むしろ
叔母の若さと経済力の程度は分かっていたから、
すぐに追い出される覚悟は決まっていた。
ところが。
叔母は若いだけあって問題は多々あれど、
美鶴に優しくしよう、美鶴を抑えよう、
美鶴を周囲の悪意から守ろうとしてくれています。
「美鶴を心配してくれてありがとう」
「あの子を死なせたくないの」
亘との会話からも美鶴への愛情は確かに感じられます。
美鶴にとって、これは余りにも想定外の出来事です。
そして美鶴もまた、自覚はないかもしれませんが
叔母を愛しく思うようになってしまったのだと思います。
愛する叔母に幸せになってもらいたい。
もう、このひとしかいないのだから。
そのために美鶴は叔母にとって不幸の源である
自分自身を殺すことを選んだのです。
また美鶴は自分の存在価値を
感じていないフシがあるため、
残される叔母の悲しみも全く考慮出来ていません。
その辺がまた美鶴らしくて、切ないです。

ふたつめの理由、混乱について。
ひとつめの理由の後押し&付随するかたちで、
環境の激変による混乱をプッシュします。
今まで酷く緊張を強いられてきた生活から、
ある日突然すごいゆるくなった。
今度の保護者は若くてきれいな叔母さんで、
絶対に自分を殺さない。害しない。ここは安全!
って安心しちゃったことで、
かえって落ち着かなくなってしまって
簡単にスイッチが入っちゃう状態になって
いたんじゃないかと思います。
兵隊さんは戦場にいる時よりも、むしろ
戦地から帰ってからのがやばいのよみたいな。
そうでもないと「とても強い芦川美鶴」は
絶対に自殺なんてしないと思います。

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・旅人ミツルのヒト殺し

原作の美鶴がはじめて手に入れた真実の鏡は、
南大陸の獣人族の男から手に入れたものでした。
男は用心棒のようなことを生業しており、
美鶴が旅人であり自分の持つ真実の鏡が必要なことを知ると、
自分を雇わないかと美鶴に持ちかけてきました。
しかし美鶴の人間不信、むしろ憎悪といっていい性質を
男は知りませんでした。そこで
「そもそも仲間など必要ない」
「しかも自分を雇えと、対価を要求してくるような輩を
どうして信じることができようか」
そう判断した美鶴に男は殺され、真実の鏡を奪われました。

幻界が、その人を映す心の鏡であるならば、
美鶴にとって他人とはそんな存在だったのでしょう。
現世での美鶴は常に必要なものを得るために
対価を要求され続け、犠牲を捧げさせられ続けて
きたのだと思います。

幻界で力を得た美鶴は要求に甘んじることなく男を殺し、
そして手に入れた真実の鏡を使います。
真実の鏡が映し出したもの、つまり
美鶴が会いたいと望んだそのひとは、
友人である宮原でも叔母でもなく、三谷亘でした。
そこで美鶴は現世に渡り、ガス心中から亘を救い、
その上旅人の証を与えて亘にも運命を変えるチャンスを授けます。
とんでもない大サービスっぷりです。

望みを叶えるためには何でもできると誓った美鶴が
その誓いを己に刻みこむように、ヒトの命を奪った。
信念のままに手段を選ばず歩む道を切り開いた。
でも心のやわらかいところが動揺する、恐ろしい、何かに縋りたい。
そんな思いが、幽霊ビルでぼろぼろになりながら
「何となく来たんだ」と自分をたすけてくれた亘に向いたのだと思います。
対価を要求され続けてきた美鶴にとって、
亘はただ一人、見返りもなく自分を助けてくれた相手、
信じられる相手だったから。
そして自分とよく似た運命を背負っている亘のこれからを考え、
自分のような思いをして欲しくなかったからこそ、
運命を変えるチャンスを与えたのだと思います。
亘が幸福になってくれれば、自分が奪った命も赦されるのではないか、
そんな深層心理があったんじゃないでしょうか。

とりあえずやっつけアップでした。のちほどもうちょい掘り下げます。

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・その他こまごまと

考察とはいえない萌え文とか、口説き台詞とかバトンとか。
そのうち整理します。


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